うめだ阪急コンコースウィンドー迎春花
2024迎春花 解説
迎春花への想い
日本において伝統的におめでたいとされてきた意匠の数々、そこに込められた目出度さの意味を再認識して、いけばなで表現しました。このいけばなが皆様のお心に勇気とやる気、少しの憩いとなって伝わりましたならばこの上ない喜びでございます。令和6年の幸先良い門出を皆様とともに言祝ぐ迎春花でお迎えいたします。
初日の出に本年の幸せと順風満帆を願う「来光」
水は命の原点。水の源流である深山の風景「蓬莱」
甲辰歳 龍の勢いにあやかりたい「瑞祥」
直ぐなる杉のすくすく生える異形の美を再発見する「須久須久」
赤に繁栄と避邪の願いを託した「猩々」
陰陽和合の調和美。しつらえの遊び心「日月」
令和6年 御歌会始めの御題「和」にちなんだ「わ」
このようなテーマで、令和6年が健やかな一年でありますようにとの想いを込めて挿花いたします。
1号「来光」
新しい年の初めに昇る太陽を意とする「元旦」。旦は地平線からようようと顔をのぞかせる日の出の姿。
山上で迎える神々しいご来光の絵を掛け軸に見立てて、歳徳の神を迎える松に梅を添えて鷁首龍尾船(げきしゅりゅうびせん)にいけています。
ご来光にはこの年を幸せで良い年にと願う気持ちを込め、順風満帆に一年がすごせるようにとの想いから、よく水を渡る「龍」、風波に耐えてよく飛ぶ「鷁(げき)」の飾りをつけた
船花器を合わせました。
花材
松 梅
2号「蓬莱」
水は命の根源です。嵯峨御流では、山から海への連続した水の流れが自然の風景を作り出しているという発想をいけばなの型にした、「景色いけ 七景三勝」があります。このウィンドーで水の源流を生み出す「深山の景」を、表現しました。国土の7割以上を山岳が占める日本では、豊かな水の恩恵によりいたるところに多様な自然環境が生まれ風光明媚な景色がみられます。この多様で豊かな国の宝である自然環境を守り後世に伝えるためにも、水=命は連続しつながって存在しているという大切なことをいけばなで表現していきたいと思います。
花材
エゾマツ トドマツ キャラボク シラカバ ハルニレ オタフクナンテン ほか
3号「瑞祥」
令和6年は甲辰(きのえたつ)年。辰年の象徴でもある龍(たつ)は、霊妙な四種の瑞獣「四霊」または「四瑞(しずい)」の一つで四神とも相通じる伝説上の生き物です。海、川、山、炎、風、雲など、自然の姿や力を龍の姿と見て吉祥のあらわれと想いをよせる対象としてきました。龍とつく名や言葉も吉祥とされ天子や英雄のたとえにもされてきました。
四瑞とは麟(りん、麒麟)・鳳(ほう、鳳凰)・亀(き、霊亀)・竜(りゅう、応竜)。
このウィンドーでは 運気上昇、富と幸福をもたらすといわれる龍の姿を、南方竹の根を金色に染めて表現しました。
花材
南方竹の根 寿松 ユッカ 赤松 地湧金蓮 ほか
4号「須久須久」
杉は「スクスクと生える木」からつけられた名前。『古事記』応神条に「楽浪道(さざなみぢ)を須久須久(すくすく)と我が往(い)ませばや」と書かれていることから題字を須久須久としました。スクの語源はスクヤカ(健)の意であり「すくすく 滞りなく進む、勢いよく成長するさま」という意味もあります。
台杉という仕立て方は、もともと京都の北山の狭い敷地で北山杉のまっすぐな丸太を育てるために、杉の匍匐する性質を生かして考えられたものですが、現在ではその細い優美な容姿からもっぱら庭園観賞用とされています。観賞用台杉はシロスギという繊細な品種が用いられているそうです。
苔庭には一両から万両までの植物を配して、「〽千両万両有りどおし」(一年中お金に困らないの意)の狂歌にちなんだ植物を配しています。
花材
台杉 古木 オンシジウム 苔 一両:アリドオシ 十両:ヤブコウジ
百両 千両 万両 ほか
5号「猩々」
古い中国のお話。大変親孝行の男・揚子の里に住む高風(こうふう)の夢に、市でお酒を売れば富み栄えるというお告げがあり、お酒の商売をしたところ、高風はどんどんお金持ちになっていきました。その店にはいくら酒を飲んでも顔色の変わることのない客が市が立つごとに訪れ、不思議に思い名を尋ねると潯陽の海中に住む猩々だと名乗ります。
月の美しい夜、潯陽で高風が酒を持って猩々を待っていると、猩々が海中より浮かび上がって、酒を飲んでは舞い遊び、最後に猩々は汲めども尽きぬ酒壷を高風に与えて消えていく。
それは高風の夢の中での出来事でしたが、酒壷はそのまま残り、高風の家は長く栄えたといいます。まことにめでたいお話で、能の演目にもなっています。
能の猩々で用いられる赤い頭(かしら)と酒に酔った猿のような赤づくめの衣装を、猩々緋の色に染めたヤシの花序、猩々木(ポインセチア)などの花材で表しました。
花材
ヤシの花序 レッドウィロー ポインセチア ほか
6号「日月」
花衣桁は着物などの衣服を掛けるものをもとにして、いけばなを飾れるように趣向を凝らしてつくられたものです。もとは東山義政公の御好ともいわれていけばな各流派で用いられています。そこに飾られるものは、花器のほかに香炉 払子 如意 神鏡といったもので、それらは通常、床の間飾り、書院飾りに用いられるものです。それゆえに花衣桁には床の間、床脇、書院という建築様式が集約されているともいえます。花器は釣器・掛器・置器と、組み合わせと花材の変化でさまざまな楽しみ方ができます。ここでは、向かって右の花衣桁を「陽=日」、向かって左を「陰=月」と見て、陽側にはやや改まった飾り方で勢いよく伸びる紅梅を、陰側にはくつろいだ飾り方で満月花器から枝垂れる白梅をいけ、陰陽和合による調和を表しました。題字は日と月をあわせた「日月」としました。
花材
梅 水仙 蘭 ほか
7号「わ」
令和6年 宮中で催される新年御歌会始めの御題は「和」です。
ひらがなの「わ」は、「和」の簡略体であり、その意味合いは、やわらぐ、おだやか、のどか、あたたか、ととのう、したがう、静まる、ほど(節度)、仲が良い、和睦、等々このほか、夥しい字義があります。この作品で置器の亀花器にいけているのは、嵯峨御流 生花の「内用」という花姿。天地人三才の枝の働きの変化に魅力があり、その姿はあたかも、「わ」の字の形をしています。嵯峨御所好みの垂撥に掛けているのは真鶴の竹器。いけているのは結び柳です。結び柳の由来は「結す」と「産す」「生す」(ともに「むす」と読む)が通じていることから、また、新年と旧年を結ぶという意味も込められていて、さらに結び柳の丸く結んだ部分は「生命力の象徴」や「一陽来復」の太陽を現しています。
題字は和合、調和の意味をこめて、「わ」としました。
花材
石化柳 枝垂れ柳